幸福の団地王子
何とはなしに庭を見ていたら、玄関ポーチでまどろんでいたのオイが、飛び起きて疾走!
そのダッシュがマジで凄ごい!
(な、何だ、何だ??)慌てて目で追いかける。
つ、ついに私は発見してしまった。
スズメが一羽、何かを口に咥えて、塀に止まっているのを。
スズメはやがてチョンチョンと塀を伝って行き、オイはそれを追いかけて行った。地面に何も落ちていないのを確認しながら、慌てて。
一羽と1匹は、オイの態度からして、旧知の間柄である事は明白。
以前、キャビアのパン・ケーキを庭に落としていったのは、このスズメだったのだろうか?
塀に囲まれ、紐に繋がれた犬にも、人間の知らないドラマがある。
しかし、いったい、このスズメは何の目的で?
幸福の王子の使者は、ツバメ。
しかし、もしかすると、この団地にもどこかに心清きお金持ちがるのかもしれない。
オイの様子を見て、「あの哀れな犬に、食べ物を!」
やがてキャビアに添えられたパンケーキを恵んでやりたいと願った。
時期悪く、賢いツバメたちはみんな南の国に出払ってしまている。
団地王子は仕方なしに、そこら辺をうろついていたスズメに頼む。
スズメ、別に南の国に帰る予定も無いから、切羽詰って王子の願いを叶えたりしない。
いつも沢山のお仲間が一緒なので、孤独も知らない。
「虫が食えなきゃ、クズ食べて生きろ。それだけのこと」
先祖代々、DNAに組み込まれて生きている。
「石なら吐き出せ。実なら飲み込め。それだけのこと」が座右の銘。
貧しいことの辛さなど、微塵も感じず生命を受け継いできた。
それでも日本人に馴染みの深い鳥ゆえに、「適当にするよ」を条件に
団地王子の願いを受け入れることにする。
しかし仲間とチュンチュン言い合っているうちに、何を頼まれていたのか忘れてしまう。
目的地には何とか来たものの、大きく的を外して、庭の片隅にパン・ケーキを落す。
幸いな事に、鼻と勘が異様に良い犬の才能もあって、団地王子の願いは叶う。
久しぶりに庭に出た犬に、「今日は醤油煎餅を運んでおあげ」
王子、再度、スズメに願う。
しかしスズメ、犬をからかっているうちに、誤って醤油煎餅を飲み込んでしまう。
そのうち、だんだんと王子との約束そのものを忘れてきた。
犬に見せびらかしながら、
「何で、わたしはここで食べてるのかしら?モグモグ」
食べ物にも、それを与える者にも、貴賎無しに生きてきた犬は辛い。
スズメのおこぼれでも構わない。
落とせよ、落せ〜
庭に出るなり、その場所を真っ先に確認する癖も付いた。
ガラガラと戸が開く。
「ちぇっ!」と犬は飼い主の元に走り寄る。
犬も賢く、飼い主の足元では、決して失望の表情は見せない。
飼い主の知らないところで、犬には犬のドラマがちゃんとある。
人間の知っている事なんて、本当に本当に、犬の生活の一部にしか過ぎないんだよ。
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